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東京地方裁判所 平成5年(行ウ)301号 判決

原告

(選定当事者) 矢野穂積

被告

(東京都知事) 鈴木俊一

右訴訟代理人弁護士

伊東健次

理由

一  請求原因1ないし3、同7の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

1  都議会は、平成三年、東京都庁舎の移転と同時期に現在の議会棟に移転したが、右移転に先立ち、都議会各会派は、昭和六一年二月二六日、議会棟内の議員控室は、議員と都民との広範な交流及び自主的な議員活動を行えるよう十分な広さをもつとともに便利な場所に設けるものとし、議員一人当たり二二平方メートル以上の面積を確保することを申し合せ、さらに平成元年一二月一四日、新しい議会棟においては、各会派の議員控室を所属議員の多い順にその五階北側から割り振ることを申し合わせた。

2  現在の議会棟に移転した当時の都議会各会派の構成及びその所属議員数は、別紙1に記載のとおりであって、議会棟には別紙1のとおり間仕切り壁で区切られた会派ごとの議員控室が設けられたが、その床面積は、前記申合せにそって、当該会派に所属する議員一人当たり概ね二二平方メートルを一応の基準として計算されたものとなっていた。

3  平成五年六月二七日実施された都議会議員選挙の結果、各会派の構成及びその所属議員数が別紙2記載のとおりとなり、会派の「自民党」、「公明党」、「日本共産党」についてはその所属議員数に大きな変化はなかったが、「社会・都民」については選挙前の三五名が一九名に減少し(なお、会派名も「社会・市民」となった。)他方、「日本新党」については選挙前の二名が一挙に二二名に増大するという大幅な変動があった。

そこで、改選後の各会派は、平成五年七月二八日、改選前の議員控室の配置を基本にして、新しい議員控室の割振りを別紙2のとおりとする申合せを行った。本件工事は、右申合せにそった議員控室の間仕切り壁の変更やこれに伴う絨毯敷替、空調設備などを行うために実施されたものである。

二  ところで、地方議会においては、政治的な思想・信条等を同じくする議員が、議会内で統一的な行動をとるため、所属する政党を基本として「会派」と呼ばれる団体を結成し、各種案件の立案、検討やそのための関係者との面談、情報収集、意見交換などの議会活動等を行っており、議会の運営もこの会派を基礎として行われているのが通例であって、地方議会の議員がこのような「会派」を結成し、会派を通じてその議会活動等を行うことは、議会制民主主義の下において、適切かつ有意義なものということができる。

このように議員が会派を通じて議会活動等を行っていることに鑑みれば、都議会におけるように、議会棟内での議会活動の拠点となる議員控室を会派ごとにまとまったものとして設けることは、議員の議会活動の便宜の面からも必要かつ効率的であるといえるし、議員控室を会派ごとに設ける場合には、各会派間の実質的平等を図るためにも、その所属議員数に応じた面積の議員控室を各会派に配分するのが公平妥当な方法であるということができ(その結果、所属議員数の多い会派の議員控室の床面積が広くなり、そこに会派専用の会議室、事務室等が設けられることもあろうが、そのことが議員控室の使用方法として不適切であるとか不合理であるということはできない。)、議員控室は議員一人当たり二二平方メートル以上の面積を確保する旨の都議会各会派の申合せも、議員控室を各会派に配分するための一つの基準ないし方法として、必ずしも合理性を欠くものということはできない。

そうすると、選挙によって会派の所属議員数等に大幅な変動が生じたような場合において、従前のままでは、会派ごとにその所属議員数に応じた議員控室を確保できず、各会派間の実質的な平等が図れないこととなるときには、従前の会派ごとの議員控室相互の間仕切り壁を変更するなどの措置をとる必要が生じるのであって、本件においては、前記認定のとおり、会派間に所属議員数の大幅な変動があり、従前どおりの議員控室の配分では会派間の平等、公平が図れないことが明らかであるから、改選後の会派構成等に見合う議員控室として整備するため、従来の間仕切り壁の変更等を内容とする本件工事を実施することは、会派を単位とした議員の議会活動の便宜に資するという観点からも、その必要性を否定することはできず、本件工事をもって不必要、不合理なものということはできないし、地方自治法二条一三項の趣旨に反するということもできない。

三  原告は、国会においては会派構成の変動が生じても議員控室の交換という方式をとっており、都議会も国会の方式に準じるべきである旨主張するが、国会内の控室のほかに議員会館内にも個別に執務のための部屋を有している国会議員の場合と、議会棟の議員控室のみが執務のための部屋となっている東京都議会議員の場合とを同列に論ずることはできず、原告の右主張は採用することができない。

また、原告は、東京都庁舎(事務棟)がオープンスペースとなっているから、議会棟の議員控室相互間に間仕切り壁は不要であるとか、議員控室相互間の間仕切り壁が遮音性のあるものである必要はないなどと主張するが、議員と関係者との面談や議員相互間における情報や意見の交換などといった議員活動の性質上、その内容いかんによっては自ずから秘密保持の要請があることは否定できないところであり、議員控室で行われる協議などが容易に他人に漏れるようでは、議会棟内での議員の活動に支障が生じることも予想されるのであるから、議員控室相互間を遮音性のある壁で区切ることが必要でないとか、合理的な理由がないということはできず、この点に関する原告の主張は失当といわざるをえない。

四  右のとおりであって、本件工事を行うことにおよそ必要性も合理性も認められないとの原告の主張は理由がないから、本件請負契約の締結が違法であるとする原告の主張はその前提を欠き失当であって、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。

よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 橋詰均 徳岡治)

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